こんにちは。
あやとです。
「『納屋を焼く』ってどう読めばいいんだろう?」
今日はこんな方向けに記事を書いています。
僕は年間読書量の1/3が村上春樹!
そんな僕が丁寧に考察・解説しています。
よろしくお願いします。
・読書ブロガー
・日本大学文理学部卒業
・年間読書量の1/3が村上春樹
村上春樹「納屋を焼く」の考察&解説
解説の前に「納屋を焼く」とはこんな作品です(↓)
- 初出:「新潮」1月号(1983年)
- 収録:「蛍・納屋を焼く・その他の短編」(新潮社、1984年)
- 2018年、韓国にて映画化
ちなみに読み方は、「なやをやく」と読みます。
あらすじ
「僕」は知り合いの結婚パーティでパントマイムをしている「彼女」と付き合い始めます。彼女は僕以外の複数の男性と付き合っているとのこと。複数の男性のうちの1人の「彼」が不思議な話をするのです。
「時々納屋を焼くんです」
こんなことを言い出しました。彼は、近いうちに納屋を焼く予定があるそう。そんなわけで、僕は家の近くにある目ぼしい納屋を見回るのですが、一向に焼ける気配はありません。そこで彼に再び会うと、すでに納屋は焼いたといいます。でもそれと時を同じくして、彼女は消えてしまいました。
こんな話でした。
では、ここから考察に入ってみたいと思います。
村上春樹「納屋を焼く」の考察&解説→これはパントマイム・蜜柑剥きの話です。
「納屋を焼く」でポイントとなるのは2つです。
- 納屋→消えていない
- 彼女→消えた
大まかに言えば、こんな話でしたよね。
でもこの話で村上春樹が言いたいことは、1つだと思います。
「あなたには見えない世界がある」
これを表現したかったのではないでしょうか?
以下、順を追って解説しています。
納屋を焼く「蜜柑むき」の話と「ある」「ない」の話
冒頭、蜜柑剥きの話が出てきたのを覚えていますか?
こんな場面でした(↓)
彼女の左側に蜜柑が山もりいっぱい入ったガラスの鉢があり、右側に皮を入れる鉢があるーーという設定であるーー本当は何もない。
彼女はその想像上の蜜柑をひとつ手にとって、ゆっくりと皮をむき、ひと房ずつ口にふくんでかすをはきだし、ひとつぶん食べ終えるとかすをまとめて皮でくるんで右手の鉢に入れる。村上春樹「納屋を焼く」P 55より引用
こんな場面でした。
そこで主人公が「君にはどうもその才能があるようだ」と言います。
すると彼女がこう言うのです(↓)
「あら、こんなの簡単よ。才能でもなんでもないのよ。要するにね、そこに蜜柑があると思いこむんじゃなくて、そこに蜜柑がないことを忘れればいいのよ。それだけ」
村上春樹「納屋を焼く」P 56より引用
これを先ほどの疑問点に当てはめてみます(↓)
- 納屋→焼いたはずなのに「ある」
- 彼女→存在するはずなのに消えた(「ない」)
こう、なりますよね?
つまり主人公は、
- 「ない」はずのものが見えて
- 「ある」はずのないものが見えない
こんな世界にいるのです。
なので主人公は、「彼女」は見えず、「納屋」は見えます。
村上春樹は作中で、このように触れています(↓)
「僕はモラリティというのは同時存在のことじゃないかと思うんです」
「同時存在?」
「つまり僕がここにいて、僕があそこにいる。僕は東京にいて、僕は同時にチュニスにいる。責めるのが僕であり、ゆるすのが僕です。それ以外に何があります?」
村上春樹「納屋を焼く」P 71より引用
理屈は、こちらと同じです。
つまり、「見える世界」と「見えない世界」が同時に存在しているのです。
でもこのトリックは簡単です。
なぜなら、主人公の検証不足だからです(↓)
- めぼしい納屋を5つ、定期的に回った
→でも納屋は全部で16個あったとされます(↓)
したがって納屋の数も結構多い。全部で十六の納屋があった。
村上春樹「納屋を焼く」P 75より引用
しかし主人公は「勝手に目星を5つ」に絞り、そこしか見まわりませんでした。
全部で納屋が16個あるのに5個しか定期的に見回らなければ、そりゃ、焼いた納屋は見えません。
他にも11個の可能性が残っているからです。
僕は手帳のページを破って「連絡してほしい」というメモを作り、名前を書いて、郵便受けの中に放り込んでおいた。連絡はなかった。
その次に僕がそのアパートを訪れた時には、ドアには別の住人の札がかかっていた。ノックしてみたが誰も出てこなかった。相変わらず管理人は、見つからなかった。
それで僕はあきらめた。一年近く前の話だ。
彼女は消えてしまったのだ。
村上春樹「納屋を焼く」P 83より引用
こんな記載がありました。
つまり主人公「僕」は、
・電話をかけてみた→電話局で止められていた
・アパートまで行ってみた→彼女の部屋はしまったままだった
・管理人に聞きたかった→どこにもいない
これだけの情報で「僕」は彼女が「消えてしまったのだ」と判断しています。
でもこの状況から言えることは、(↓)…
ことから、
とも言えないでしょうか?
「電話が繋がらない」「アパートにもいない」「管理人はいない」
→イコール「彼女は消えてしまった」とはなりません。
- 転居した
- 他の男の元へ行った
- 外国へでも行って行方不明になったのかもしれない
といろんな可能性が考えられるからです。
検証不足のため、
- ないはずの納屋が見える
- 消えていないはずの彼女は消えてしまう
こんな「異世界」に来てしまいました。
- 納屋の目星→違っていた
- 彼女の行方の解釈→違っていた(早計)
こんな風に解釈次第で住む世界が違って見えます。
これを村上春樹は表現したかったのではないでしょうか?
つまり「同じ世界に異世界が同時存在する話」です。
まとめ
いかがでしたか?
僕は他にも「パン屋再襲撃」「クリーム」についても考察しています。
良かったらそちらもよろしくお願いします。
ではまた。