村上春樹

【村上春樹「一人称単数」】全作品のあらすじ、感想、考察、解説、解釈

こんにちは。

彩人です。

一人称単数、全作品のあらすじが知りたい…!

解釈や考察を書いてあるサイトってあるかな?

今日は、こんな方向けに記事を書いています。

こちらでは「一人称単数の全作品のあらすじと考察」を記載。

よろしくお願いします。

あやと
あやと
執筆者・彩人プロフィール
・読書ブロガー
・日本大学文理学部卒業
・年間読書量の1/3が村上春樹


村上春樹「一人称単数」のあらすじと考察

一人称単数は、2020年7月に文藝春秋から発売。

「女がいない男たち」以来、6年ぶりの短編集となりました。

以下、ネタバレ含みます。

未読の方はご注意ください。

村上春樹「一人称単数」あらすじと感想・考察①石のまくらに

あらすじ(ネタバレあり

大学生の頃の回顧録。ふとしたきっかけで「僕」はバイト先の女性と一夜を過ごします。女性について知っていることは短歌を作っていることだけ。詳しい住所すら知りませんでした。そんな女性と一夜を過ごします。そしてその翌朝。彼女は自分が作ったという短歌を送ってくれると言います。1週間後。実際届いたものを読んでみると不思議な味わいのする短編でした。「石のまくらに」というのはその短歌の題名から。ただ彼女と会うことはその後、2度とありませんでした。

1話目から味わいのある作品でした。

まさかの短歌登場。

村上さんの多才ぶりに驚きました。

ちなみに短歌はこんな感じでした(↓)。

午後をとおし / この振りしきる / 雨にまぎれ

名もなき斧が / たそがれを斬首

ちょっと不気味とも言える短歌。

「斧が/斬首」なので、彼女もそんな気持ちだったのかもしれません。

でも彼女は、1度寝ただけでいなくなってしまいます。

こんな短歌を送られて、その後、会えない…。

1話目から不気味なストーリーでした。

村上春樹「一人称単数」あらすじと考察②クリーム

あらすじ(ネタバレあり

18歳の時に経験した奇妙な話から物語は始まります。18歳の時に「ぼく」はピアノ演奏会の招待状をもらいます。招待状は昔一緒にピアノを習っていた女の子からのもの。でも今頃になってなぜ急にピアノの招待状が送られてくるのかわかりません。とりあえず会場とされる住所(神戸の山の上)に行ってみると、門扉は閉まっていてベルを押しても誰も出て来ない。不思議に思い帰るのですが、帰る途中で2つの出来事に遭遇します。一つは宣教車。二つ目は老人。キリスト教の宣教車が「人は皆死にます」と拡声器で宣伝に来た後、「ぼく」は持病の過呼吸が出て倒れてしまいます。その過呼吸で休んでいる間、老人が現れます。老人はそこで「中心がいくつもあって外周を持たない円」の話と「人生のクリーム」の話をするのですが、気づくともういません。そしてその時持っていた花束をベンチに置いて帰宅。そこで過去の話は終わります。あとは現代に戻って、友人に感想を言って物語は終了です。

この話も1話目「石のまくらに」と同様、謎を残す物語でした。

謎すぎて僕は、別ブログまで執筆(↓)

良かったらこちらもご覧ください「クリームの考察と徹底解説

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この話を読んで、たくさんの疑問が生まれてきました(↓)。

  • 老人とは何者だったのか?
  • ピアノの招待状とは何か?
  • 外周を持たない円とは何か?
  • 「あの」キリスト教の宣伝カーあえて出す意味は何か?

他の作品と比べてかなり謎が多い作品。

でもこれは僕たちが想像するための材料提示なのかな?と感じました。

なので僕は深追いせず。

解釈の数だけ物語がある、そんな物語でした。

村上春樹「一人称単数」あらすじと考察③チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノバ

あらすじ(ネタバレあり

15歳の頃、僕は商業誌に「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノバ」なる文章を書きます。そこで初めて原稿料をもらいました。ただもちろん「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノバ」なる曲は存在しません。架空の曲です。そんな曲と15年後、ひょっこり出逢います。場所は滞在したニューヨークにて。買おうかどうしようか迷うのですが、どうやら空目のようでした。しかし話はここで終わりません。「僕」はチャーリー・パーカーが登場する夢を見るのです。そこでチャーリー・パーカーからお礼を言われ物語が終了します。

こんな物語でした。

この物語は、

  • 「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノバ」は実在したのか?
  • チャーリー・パーカーが出てくる夢はどんな意味なのか?

こんな感じではないでしょうか。

村上春樹風に言えば「実在したかもしれないししていないかもしれない」。

「夢に意味はあったと言えばあったし、なかったかもしれない」

こんな感じではないでしょうか?

僕は2話目「クリーム」と同様、想像して楽しむ物語なのかな?と感じました。

なので文章と物語を純粋に堪能。

こんな感じですごく楽しめました(↓)。

ハードが戻ってきた!

なんという素晴らしい響きだろう!そうあのバードがたくましい羽ばたきとともに戻って来たのだ。

(P 51より引用)

こんな出だしなのですが、なんだか楽しくなりませんか?

「石のまくらに」「クリーム」という暗い作風からは一転。

上記2話が怖めの話だったので、ちょっとほっこりしました。

村上春樹「一人称単数」あらすじと考察④ウィズ・ザ・ビートルズ〜With the Beatles〜

あらすじ(ネタバレあり

1964年。世間はビートルズに熱狂していた。「僕」は「ウィズ・ザ・ビートルズ」というアルバムとともにその頃を振り返ります。「僕」には付き合っている彼女がいました。でもその彼女の話というよりはお兄さんとの話が中心でした。ある日、彼女のお兄さんから芥川龍之介の「歯車」を朗読して欲しいとお願いされます。そしてその後、「記憶が飛ぶ現象」についても相談を受けます。ただ話はそこで一旦終わり。そこから15年後のことです。ふとしたきっかけでお兄さんと再開します。そこで付き合っていた彼女の死を知り、そのお兄さんの「記憶が飛ぶ現象」も消えた話を聞きます。

この物語は、「一人称単数」の中で一番長いストーリー。

ページ数は50ページほどでした。

そして物語の作りは重厚。

ビートルズ、芥川、彼女、お兄さん、たくさんのキーワードが出て来ます。

ただ僕はあまり好きになれず、考察をまとめるほど読み込めませんでした。

自殺に記憶が飛ぶという現象。。

不思議でちょっと怖い物語でした。

村上春樹「一人称単数」あらすじと考察⑤ヤクルトスワローズ詩集

あらすじ(ネタバレあり

「僕=村上春樹」を想起させて物語は始まります。物語というよりはサンケイ・アトムズ(ヤクルト・スワローズ)とお父様、お母様の回顧録といった感じ。特に「あらすじ」がある訳ではなく、淡々とヤクルト・スワローズとご両親の思い出が綴られます。エッセイや私小説風でした。

上のあらすじの通り、かなり謎な物語となっています。

  • なぜここで回顧録を挟むのか?
  • ヤクルトスワローズ詩集とは実在するのか?
  • そもそもこの物語にどんな意味があるのか?

かなり謎を残す物語となっています。

まず「ヤクルトスワローズ詩集」という詩集から。

こちらはネットで調べたところ、実在しないようです。

高値で売買されているとのことですが、それらしいものは見つかりませんでした。

続いてエッセイ・私小説風の物語も謎でした。

ただここでのポイントは「=村上春樹」とは断言していないこと。

このことから次のことの隠喩なのかな、と感じました。

あなたも物語の主人公たりえるかもしれない

あの時ビールを飲み、野球観戦していた「僕」は村上春樹。

その当時は詩を読んだりしていたけど、今は立派な小説家。

こんな僕でも小説家や物語の主人公になれたぞ。

次はあなたの番かも知れない。

僕は、こんな風に読みました。

村上春樹「一人称単数」あらすじと考察⑥謝肉祭

あらすじ(ネタバレあり

主人公は今までの人生でもっとも『醜い女』と出会います。それはF*という女性でした。2人はそれぞれ家庭もあり、結婚しています。にも関わらず音楽祭に行ったり食事に行ったりします。ただ主人公の奥さんはその関係は気にしていないようです。それは彼女の醜さの恩恵と言えそうです。ある日、F*が逮捕されているという報道を目にします。どうやら高齢者に詐欺を働き、逮捕されたようでした。ただそれ以来、彼女のことは目にすることがなくなります。裁判にかけられたのか保釈されたのかもわかりません。彼女と一緒に聞いた「謝肉祭」のコンサート会場に行けば、会うかも…と思ったりもしましたが、そんなことはありませんでした。

この物語も薄気味悪いですよね。

知り合った女性が巨額詐欺事件に絡んでいた。

こんな女性と知り合いだったらビックリします。

ただこの小説だけは、なんだか妙に起こり得そうな設定でした。

僕の周りでもありそうです。

そういう「現実味を伴った怖さの表現」かなと解釈しました。

あなたにも起こり得るかもしれない、こんな示唆ではないでしょうか。

村上春樹「一人称単数」あらすじと考察⑦品川猿の告白

あらすじ(ネタバレあり

「僕」は5年ばかり前、群馬県M*温泉に行きます。そこの風呂場で「お湯かげんはいかがでしょうか?」と話しかけてくる猿に遭遇します。会話が弾んだこともあり、猿と2人で部屋でビールを飲むことにします。話を聞くと猿はここの従業員とのこと。また名前を盗む癖があるという話も聞きます。ところが翌朝、なぜかビールのお勘定がなかったことになっています。従業員に訳を聞くと缶ビールは売っていないとのこと。また猿を雇っているかも不明でした。「こんなこともあるのか」とこの話をノートブックに書き留めておいた5年後。今度はあの猿に名前を盗まれたと思われる女性が現れます。ただ話はここから深掘りされることなく、そのままフェードアウト。猿が本当にいたかも謎のままでした。

この話のもととなっているのは「東京奇譚集」の『品川猿』と思われます。


東京奇譚集(新潮文庫)

あの猿は、群馬県の温泉で働いていたんですね。

「東京奇譚集」からのその後が書かれていました。

この物語の疑問は…

  • 猿は実在したのか
  • 消えたビールのお勘定はどこへ行ったのか

こんな感じだと思います。

これは僕なりの解釈なのですが、「品川猿」は本当にいたのだと思います。

・2度目の登場である

・名前を忘れたという女性が登場するエピソードもある

こんなことから、「本当はいる」という優しいメッセージではないかと解釈しました。

「幽霊」や「心」。

目に見えないものはたくさんあります。

なので村上春樹は品川猿をあえてここで2度も登場させることで、本当にいたことを強調させたかったのではないでしょうか?

「東京奇譚集」はかなり突飛な設定で、ありえない感じがしました。

また私たちがいないと思っている幽霊や目に見えないもの。

こういうのもいる、という示唆かなと感じました。

また、解釈云々よりも僕は「品川猿」に会えて嬉しかったです。

なぜなら村上作品で過去作品リンクは珍しいからです。

元気そうで何よりでした。

村上春樹「一人称単数」あらすじと考察⑧一人称単数

あらすじ(ネタバレあり

気持ちのいい春の宵。めったにスーツを着ない「私」がスーツを着て外出します。いつもとは違うバーに行き、本を読む。するとバーで知らない女性が声をかけてきます。その女性は「そんなことしていて、なにか愉しい?」などという辛辣な言葉でした。でも「私」は何故か居座ってしまう。限界を感じてお店の外に出ると季節は春ではなく、景色も違って見えます。そこで物語は終わります。

この作品だけは書き下ろしです。

ページ数も15ページほど。

最後はかなり難解な物語でした。

読者に小さな小石を投げかけた感じ。

バーに行っておしゃれにお酒を飲み、不思議な女性と語り合う。

そしてお店を出たら世界が変わっていた、とても村上春樹らしい物語です。

深掘りするというよりは、おまけを楽しむ物語なのかなと感じました。

村上春樹「一人称単数」の総論〜考察と解釈・解説〜

いかがでしたか?。

最後にこの本の全体的を考察してみたいと思います。

この本の共通事項は過去にあった「不思議」「不気味」「謎」

こちらは全ての作品に共通していました。

エッセイ調の「ヤクルトスワローズ詩集」然り「品川猿の告白」しかり。

このことから、思い返せば不思議だが、今は普通に暮らしていることの表現だと僕は感じました。

いかがでしょうか?

関連書籍としては「東京奇譚集」と「猫を棄てる」あたり。

それらが少しずつ繋がっている感じがしました。


東京奇譚集(新潮文庫)


猫を棄てる 父親について語るとき (文春e-book)

また全体を覆う雰囲気としては、「大人の村上春樹」の印象。

過去作品で良く用いられた一人称(「僕」や「私」)がバージョンアップし、熟成した印象でした。

ちなみに僕は、村上春樹作品を多く考察しています。

良かったら合わせてよろしくお願いします。

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